はじめてゴルフをした日の話。

僕をはじめてゴルフに連れて行ってくれたのは川島先輩(仮名)という人なのだけど、この人はとにかく「どうでもいいウソをつく人」だった。

わかる人にはすぐウソだとバレるが、知らない人にはちょっとホントっぽい、そんな絶妙なウソをつくことが人生の喜びらしく、しょっちゅうどうでもいいウソをついていた。

はじめてゴルフに行った日も

「ゴルフはドライバーとパター以外は各ホールでクラブを1本選び、ずっとそれを使い続けなくてはいけないのがルール」

「なお、1度使ったクラブは次のホール以降は二度と使うことができない」

と言い出した。

つまり1番ホールでドライバーショットの後、どれかを1本クラブを選ぶ。例えば、7番アイアンを選んだとするとグリーンに乗るまでずっと7番アイアンで打ち続けなくてはいけない。しかも、2番ホール以降は7番アイアンは封印となり、もう使うことはできない。

もちろん僕は多少はゴルフを知っていたし、これが川島先輩のいつもの「どうでもいいウソ」だというのがすぐにわかった。

だけど、僕と同じくはじめてゴルフに来ていた田中くん(仮名)

「なるほどー!これがゴルフが戦略的なスポーツと呼ばれる所以ですな」

などと言いながら、川島先輩のウソを真に受けていた。田中くんは勉強はできるのだが、世の中をよく知らないタイプのバカだった。

すると、田中くんが真に受けたことで、川島先輩の「どうでもいいウソ」はヒートアップしたのか、

「あと、パターは4パットするとペナルティで次のホールは使えなくなります。一回休みになるってこと。そういう時はパターの代わりにドライバーで打つことになるので注意な!」

田中くんは「ふむふむ」みたいな顔をしてうなずいていた。

ラウンドが始まると、田中くんは「このホールは長いから、この長いクラブがよさそうだ」「でも、あんまり練習してこなかったからこっちがいいのか?」「ゴルフって頭使うスポーツっすねー」とか、ぶつぶつとつぶやきながら、あれこれと戦略を練っていた。

一方の僕は、川島先輩のウソだとわかっていたので、それを無視して、普通にプレイしていた。

ただ、いかんせん人生初のゴルフだったので、何度もOBをしては、ようやく当たってもあっちに行ったりこっちに行ったりで、正直、田中くんのことなど気にする余裕などなく、ボールを見つけては打ち、ボールを追いかけては打ち、で、それどころじゃなかった。

ヘトヘトで前半9ホールが終わり、ランチ休憩をして、後半へ。

自分のことで精いっぱいだったこともあり、川島先輩のウソについてもすっかり忘れていたのだが、後半に向かう途中で、田中くんが急に叫びだした。

「あれーーー?た、た、足りないっす!」

カートに載ったゴルフバックの前で、田中くんが絶望の表情を浮かべていた。

前半の9ホールでドライバーとパター以外のクラブ9本を使った田中くんは、残りの使えるクラブが3本しかないことに気が付いた。

「先輩、おかしいっす!クラブが足りません!」

それを見て、川島先輩はゲラゲラと大笑いし、まるで芸能人のドッキリ大成功のごとく、満足げな表情をしながら、田中くんにウソだったことを告白した。しかし、田中くんは怒ることもなく、

「やったー、復活だー!」

と大喜びしていた。

なぜ僕はこんなバカ2人と人生初のゴルフに来てしまったのだろうか。

そんなこんなで後半からは田中くんも普通に打ち、僕らのはじめてのゴルフは終わりを告げた。

はじめてのゴルフ。僕のスコアは158と散々だったが、なんと田中くんのスコアは119だった。

おしまい

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